2013年05月22日
☆黒木さんのシバサクラ
「妻へ笑顔の花畑」
土手を回り込んで庭に足を踏み入れると、ピンク一色の視界が開けた。
春風に乗って甘い香りが漂う。
「うちん母ちゃんも若(わ)けころはべっぴんで、こげなにおいがしちょったど」。
黒木敏幸さん(83)の言葉に、妻の靖子さん(76)と花見客たちは笑い転げた。
宮崎県新富町の黒木さん方で、約3千平方メートルのシバザクラが一気に見頃を迎えた。
緩やかな丘を小道が巡る見事な庭だが、靖子さんの目には映っていない。
20年以上前に糖尿病の合併症で光を失ってしまった。
「誰か遊びに来て話し相手になってくれたら」。
落ち込む靖子さんを見かねた敏幸さんが、一握りのシバザクラを植えたのが始まりだった。
19歳で隣町から嫁入りした靖子さんと敏幸さんは、乳牛60頭を養って子ども3人を育て上げた。
365日休みなし。
午前2時に起き、時には機嫌の悪い牛に蹴られ、乳を搾った。
「仕事をやめたら日本一周旅行に出ような」と、こつこつ小遣いを積み立てて夢を膨らませていた。
約束を果たす間もなく突然、靖子さんは暗闇に放り込まれた。
昨日できたことが今日できない。
ある日、ぽつりつぶやいた。「あの世に行ってしまいたい」
敏幸さんは酪農をやめて庭造りを始めた。
柔らかな花びら、香りだけでも感じてほしいと思った。
裏山の杉林を一本一本のこぎりで切り開き、一輪車で土を盛り上げた。
大雨で流されては、また土を運ぶ。土台を整えるだけで2年かかった。
夏は雑草を抜き、秋は6トンの肥料で覆う。
挿し芽を繰り返して年々広がっていく花のじゅうたんは、近所でも評判になった。
「黒木さんのシバザクラ」は今や観光スポット。
県外からバスも訪れ、新富町観光協会が駐車場を用意した。
週末は1日4千~5千人でにぎわう。
花見客と二人との会話は自然とおしどり夫婦の秘訣(ひけつ)になる。
「こんなに大事にされて幸せですね」
「一緒に苦労したから、ようしてくれるとでしょうね。
昔からこげな人。
互いに『ありがとう』ばっかりです」
「腹(性格)のいい嫁女(よめじょ)をもらったら大事にせんと罰が当たる」
手作りベンチに並んで座る二人は、いつも笑顔に囲まれる。
花を見られるのは今月中旬までの1カ月足らず。
またすぐに雑草と格闘する夏が来る。
「喜んでもらえるとなら90歳まで続けんと。
母ちゃんより先に逝くわけにはいかん」。
腰をさすりつつ今日も庭に立つ。
「来年もまた来んね。
あんたも腹んいい人を見つけないかんよ」。
世話焼きの敏幸さんが、大きく手を振ってくれた。
出典元:(西日本新聞)
素敵なご夫婦ですね(#^.^#)
働くこと、思いやること、日々学びですね。
『黒木さんのシバサクラ』いつか訪れてみたいです。